ところがそんな中でも主流になっていたのは、支配者側に立つ白人の音楽だった。それじゃ黒人の音楽がその時代にアメリカにおいては消えてしまったのか、
といえばそうではない。西洋音楽のフレーズやハーモニーといったものが、黒人の持っている得意な感性のフィルターを通して、新しい形式の音楽を生み出してしまったのだ。
それがジャズの起源と言われている。でも、当時のニューオリンズ市民の音楽は現在のいわゆるジャズとは少し違う。JAZZという言葉が「ばか騒ぎ」という米語のスラングであることからも推し計かれるように、
当時としては画期的な楽器編成やテクニック、そして多民族の音楽的要素が、なんとなくまとまってできた市民的レベルでの「おたのしみ」であったのだ。
そうしたお祭り的ドンチャン騒ぎの中から、いくつかの形式を持った音楽が生まれてきた。ひとつは黒人奴隷の労働歌や囚人歌、
そして黒人霊歌から派生してきたブルースである。パターン化されたコードの中で深い情念を表現してゆくこのブスースはやがて、ポピュラー な要素と軽快なリズムを持ち合わせたR&B(リズムアンドブルース)という形式を生み出し、それが大西洋を渡ってロック・ミュージックへと姿を変えてきている。