モントルー・ジャズ・フェスティバル40周年〜 「ジャズ超越」長続きの秘訣
世界三大ジャズ・フェスティバルの一つで、スイスの夏を彩るモントルー・ジャズ・フェスティバル
が今年で40周年を迎えた。ジャズファンの高年齢化が進むにつれて、日本各地のジャズ・フェスティバルは次々と消えているが、モントルーの長続きの秘訣は「ジャズの超越」にあるよう。
今日も15日までの会期中、20万人を超える聴衆が集まった。スイス西部に広がるレマン湖の街、モントルー。今年も6月30日の開幕以来、毎夜繰り広げられるコンサート
は未明までに及び、興に乗ったアーティストは朝までセッション。湖岸には出店が並び、祭りのムードを 盛り上げる。冬も温暖な地中海沿岸になぞららえ「スイスのリベエラ」とも呼ばれるリゾート地の一番の書き入れ時だ。
16日間中の会期中、3日も主役を張ったのは、ラテン・ロックを開拓したロック・リクエスト、カルロス・ サンタナ(58)。そして彼と一緒にステージに立ったのはアフリカや南米の民族音楽の旗手たちだ。
野太いギター・サウンドと、躍動的なアフリカン・ビートやサンバのリズム。そこには。1967年に市の観光局員 職員として夏枯対策にとフェスティバルを始めたクロード・ノブさん(70)の変わらぬ思いがある。
「ともかく音楽が一番」がモットーのノブさん。ジャズを超越し「何か新しくてユニークなものを」と聴衆を惹き付ける工夫を絶やさないノブさんは、今年の企画も2年からサンタナさんと練ってきたという。
ラップ、レゲエ、フラメンコ。純粋なジャズ・ファンにとってジャズの領域を超越したモントルーは
「邪道、迎合、商業主義」などと批判もされる。しかし、「そのジャンルの幅広さが40年続いた 最大の秘訣」と。70年代にモントルーを日本に紹介した音楽評論家の青木誠さん(65)。「以前、娘のラップ・バンドが出演したことがるんです」というネーゼル容子さん(55)の今回のお目当て
は、ブラジルの巨匠セルジオ・メンデスさん(65)。モントルーの幅広さが親子の世代をつなぐ接点を 提供してくれたといい、今年で4回目の来訪だ。さらにライブ・ハウス並みのステージとの距離感も
さる事ながら、隠れた売り物は「ワークショップ」と呼ぶ無料の音楽口座。人気ベーシストのマーカス・ ミラーさん(47)の講座に参加したジャック・ギヨムさん(21)は、自分のベース・ギターにサインをもらい、「ここに来ればこんなチャンスがあるんだ」と興奮気味に話す。
国際音楽祭にしては意外なほどの地元密着路線も安定した集客を支える。観光局によると「聴衆の6割
は地元スイスのフランス語圏から。2割が世界中から」。スポンサーもネスレやUSBなどの大手企業から地元のホテルや商店まで大小織り交ぜており「特定の大口企業が手を引くと存続できなくなる
日本のフェスティバルとは違う」と指摘する。
会場だけで流通する通貨「ジャズ」も好評。1ジャズ=1スイス・フランの相場はずっと変わらず、「ポケットに残ったジャズのコインに触れるたび、来年も来ようかと思う」という声も聞かれた。
(2006年7月16日:日本経済新聞「世界いまを刻む」市村考二巳)